【印西市】時を刻む木の住まい。未来のヴィンテージを紡ぐ手刻みの現場
- 2026/01/22
先週は、千葉県流山市にある風基建設株式会社さんの作業場へ足を運びました。今回の目的は、これから始まる住まいの要となる「構造打ち合わせ」です。
設計図に描かれた線が、いよいよ実体のある「木」として姿を現す、家づくりにおいて最も重要で、そして最も胸が高鳴る瞬間の一つです。
【木の家】の主役、最高級の桧(ひのき)と出会う

広い作業場にはたくさんの素性のよさそうな木材が並んでいます。そこは、木の命が再び息を吹き返す場所。立ち並ぶ大型機械の力強さと、足元にふんわりと積もった鉋(かんな)屑の柔らかさ、そして凛とした静謐な空気が同居していました。
今回の新築プロジェクトで主役を務めるのは、選び抜かれた桧の材です。 特に目を引いたのは、木目がぎゅっと詰まった、実に見事な「太鼓張り(たいこばり)」の材でした。
「太鼓張り」とは、丸太の左右二面を平らに削り落とし、上下に丸みを残した状態のものです。その名の通り、断面が太鼓のような形をしています。機械で均一に挽かれた角材とは異なり、木の本来の力強さや、うねるような生命感を感じさせるその佇まいは、まさに圧巻。その木が山で過ごしてきた長い歳月が透けて見えるようです。
【手刻み】の墨跡に託す
100年後の職人へのメッセージ

材に近づいて目を凝らすと、そこには墨(すみ)で引かれた繊細な線と、記号が書き込まれていました。これが、熟練の大工さんによる「墨付け」です。
現代の住宅建築では、工場で機械が自動的に加工する「プレカット」が主流となっています。しかし、木組みに強度や仕上がりの美しさを求める真壁の家づくりでは、あえて手間と時間をかけ、大工さんが一本一本の木の癖を見極めながら加工指示を出す「手刻み」のプロセスを大切にしています。
「い、ろ、は……」「一、二、三……」 木肌に刻まれたその「番付(ばんづけ)」や墨の跡を見つめていると、不意に、私のライフワークでもある古民家調査の光景が重なりました。
ヘリテージマネージャーとして100年、150年と時を経た古民家を調査する際、解体された屋根裏や柱の陰から、かつての大工さんが書き残した墨跡や番付に出会うことがあります。それは、時代を超えて届く、名もなき職人からの手紙のようなものです。当時の職人が何を考え、どうこの家を組み上げたのか。墨の一線から、その誇りがダイレクトに伝わってきます。
今、目の前にあるこの桧に刻まれた墨跡も、きっと同じ運命を辿るのでしょう。 何十年、何百年とこの家が家族を守り続け、いつか遠い未来の職人がこの家を手入れする時、今日この作業場で大工さんが引いた墨の跡を目にするはずです。
「この時代の大工も、いい仕事をしていたな」
そんな風に、未来の職人と対話する日が来る。そう思うと、胸が熱くなるような、何とも言えない感慨深さに包まれました。機械には決して真似できない、人間にしか成し得ない「手刻み」の精緻さ。そこに込められた「魂」を未来へ繋ぐ責任の重さに、設計者として改めて身が引き締まる思いでした。
構造が「顔」になる【新築】、真壁づくりへの挑戦
なぜ、私たちがここまで素材と手仕事にこだわるのか。 それは、今回ご提案している住まいが「真壁(しんかべ)の家」だからです。
一般的な現代の住宅は「大壁(おおかべ)」と呼ばれ、柱や梁は石膏ボードや壁紙の裏側に隠れてしまいます。しかし、私たちがつくる真壁の家は、構造材である柱や梁がそのまま室内に露出し、お部屋の表情を形作る「仕上げ材」となります。
つまり、構造がそのまま「家の顔」になるのです。
ごまかしは一切効きません。 節の出方、木目の美しさ、色味の揃い方。そして、材と材が組み合わさる「仕口(しぐち)」の精緻さ。そのすべてが、住まう人の目に触れ、日常の景色となります。

作業場の一角に置かれた「足固め図」が描かれた板図。そこには、家の土台となる部分の複雑な組み方が書き込まれています。
【設計事務所】の視点:
気が抜けないからこそ、建築は面白い
正直に申し上げれば、手刻みの真壁の家づくりは、現代において非常に「非効率」かもしれません。 設計の段階からミリ単位の検討が必要不可欠ですし、現場での管理も気が抜けません。傷一つ、汚れ一つが命取りになる緊張感。それは、効率を重視したプレカットの家づくりでは味わえない種類のご苦労です。
しかし、だからこそ、本物の素材を使い、職人の手によって一本一本刻まれた木がピタリと組み合わさった時の美しさと、そこから生まれる空間には、言葉では説明できない「深み」と、包み込まれるような「安心感」が宿ります。
今回、作業場で出会った桧たちは、これから大工さんの手によって刻まれ、やがて力強い骨組みとなって立ち上がります。 その姿を想像するだけで、今からワクワクして止まりません。
おわりに|柏市で時を刻む「未来のヴィンテージ」を目指して

家づくりは、決して設計者一人では完結しません。 素晴らしい素材を育ててくれる森があり、それを見極める目があり、形にする技術がある。そして、そのすべてを信頼して託してくださるお施主様がいる。
ヘリテージマネージャーとして、古い建物の価値を次世代へ繋ぐ活動をしている私にとって、このように「未来のヴィンテージ」となり得る本物の家づくりに携われることは、この上のない喜びです。これからも、現場の熱量を大切にしながら、一歩一歩丁寧に進めてまいります。
次回のブログでは、いよいよ刻みが進んだ様子をお届けできるかもしれません。 どうぞ楽しみにお待ちください!


















