【ヘリテージマネージャー】ステップアップ講習を修了しました|News & Topics|柏市の設計事務所「木の家設計室 アトリエ椿」 古民家リノベーション

【ヘリテージマネージャー】ステップアップ講習を修了しました

2026/03/06

千葉県柏市で、木の家づくりをしている建築設計事務所「木の家設計室アトリエ椿」の笠原です。

早いもので2026年も3月に入りました。今回は、私が今年度に取り組んできた「千葉県ヘリテージマネージャー(HM)ステップアップ講習」を無事に修了したことをご報告させていただきます。

ヘリテージマネージャーとは、地域に眠る歴史的建造物を「守り、活かす」ための専門家です。

全8回の講習では、座学だけでなく実際に現地に赴いて野帳(図面)を起こしたり、お寺のお堂を実測したり、所見を書いたりと、非常に中身の濃い時間を過ごしました。仕事の傍らでの参加なので時間調整が厳しい時もありましたが、欠席した回はYouTube動画を活用して補講を受け、2月末の締め切りに合わせレポートを提出。無事に全課程を終えることができました。

歴史を読み解く力を養う:全8回の講習を振り返って

今回のステップアップ講習は、単なる知識の習得にとどまらず、歴史的建造物を多角的に捉えるための贅沢なカリキュラムでした。

講義は、ヘリテージマネージャーの本来の目的や文化財保護制度、歴史まちづくり法といった制度面の基礎固めから始まりました。続く京都の事例にみる都市開発と歴史の共存のあり方や、重要文化財である「旧岩崎家末廣別邸」での修復現場実習、さらには地元・柏市の「染谷家住宅」での現場調査と、回を追うごとに学びの深度が増していくのを感じました。

旧岩崎家末廣別邸

後半戦では、保存修理の具体的な手法に加え、災害時に真っ先に建物を診断する「文化財ドクター」としての役割、木造建築の耐震設計、さらには建物を移築・復元する際の考え方に至るまで、まさに歴史を未来へ繋ぐための総合的な知恵を授かりました。そして最後は、松戸市の矢切神社での実測演習と発表で締めくくられました。

何より、多忙な時間を割いて私たちに講義をしてくださった諸先生方には、感謝の念に堪えません。工学院大学の後藤治先生や東京大学名誉教授の藤井恵介先生、そして苅谷勇雅先生をはじめとする、日本を代表する専門家の方々から直接お教えを授かれたことは、私にとって何物にも代えがたい財産となりました。先生方が長年の経験から培われた深い見識と、建物に対する揺るぎない愛情に触れるたび、建築士としての背筋が伸びる思いでした。

文化財建造物の保存修理を学ぶ

飯沼本家建物群

数ある学びの中でも、特に興味深かったのは、 保存修理に関する哲学です。

文化財の保存修理とは、単に古くなったものを新しく見せる作業ではありません。それは、実測や破損状況の精査、部材に残された小さな傷や痕跡、当時の仕様といったあらゆる情報を丁寧に拾い集め、その建物がどのように生まれ、どのような変遷を遂げてきたのかを正しく「理解」することから始まります。

実際の現場では、解体時に部材の一つひとつに「番付」をして位置を記録し、当時の職人が残した「墨」を読み解いて寸法を決めていきます。それはまさに、数十年、数百年前の職人と言葉を交わしているような感覚です。特に「古材の削りカスは出さない」という徹底した教えには驚かされました。新しい木材に安易に取り替えるのではなく、古材を可能な限り残し、必要最小限の介入でその建物の価値を守り抜く。この「敬意」に基づいた姿勢こそが、保存修理の根底にあるのだと学びました。

また、災害時に建物を調査する「文化財ドクター」の活動も、今後の活動において重要な指針となりました。被災した建物の所有者の方に寄り添い、適切な応急修理を提案すること。建物がどのように壊れていくのかを科学的に把握し、それを未来へ活かすこと。こうした地道な調査と判断の積み重ねこそが、地域の歴史を適切に守るための揺るぎない基盤になるのです。

矢切神社の社殿に触れ、匠の技と地域の祈りを知る

講習の集大成となったのが、松戸市に鎮座する矢切神社での実演習です。私は境内の隅に佇む小さな摂社(社殿)の調査を担当しました。

この社殿は、小規模ながらも一切の妥協がない当時の職人たちの気概に満ちていました。延べ石を精緻に組み上げた基壇の上に建つ姿は、それだけで凛とした品格を湛えています。現在は全体を「覆屋(おおいや)」に守られているおかげで、雨露による直接的な損耗も少なく、保存状態は良好でした。

建築形式は「一間社流造(いっけんしゃながれづくり)」という優美な曲線を持つ屋根が特徴で、柱には径約4寸の円柱が使われ、脇障子には木目の美しい無垢材が配されています。正面の板唐戸の両脇に継ぎ目のない一枚板が使われている点など、細かな材料選定にもこだわりが感じられます。

さらに、屋根周りに施された瓦職人の卓越した技である「影盛(かげもり)」や漆喰の渦巻模様、「龍」や「唐獅子」の彫刻など、細部も躍動感にあふれていました。この場所を聖域として大切に受け継いできた地域の方々の、深い崇敬の念が静かに、けれど確かに伝わってきました。

おわりに

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

建物の状態を丁寧に読み取り、実測や痕跡からその成り立ちを理解していく作業。それは、単なる修理ではなく「建物がこれまでどう生きてきたか」という歴史を、残していくことになります。

今回得たヘリテージマネージャーとしての知見を、これからの「木の家づくり」や古民家再生の現場に活かしていく所存です。大切な建物の価値を活かしたい、あるいは古いものの良さを取り入れた住まいを考えたい。そんな時は、ぜひお気軽にアトリエ椿へご相談ください!

 

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